NHKエデュケーショナルのお仕事、紹介します。

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奥村さんの所属する部署と、現在のお仕事内容を教えてください。

科学健康部で、主に『健康フォーラム』(※)の制作を担当しています。今までに「C型肝炎」(平成26年12月13日開催)と「糖尿病」(平成27年10月29日開催)をテーマとした「フォーラム」の制作に携わってきました。現在は「肺がん」について、新しく登場したがん免疫療法を中心に制作を進めています。
私は担当ディレクターとして、医師や患者さんの取材、全体の構成の検討、会場で上映するVTRのロケ、編集、台本作成、イベント当日の監督まで、一貫して担当しています。ちなみに、大学時代は文科系の学部でしたので、あらかじめ医学に関する知識があったわけではありません。医師や患者さんに取材をするためには、医療や病気についての専門的な知識を深める必要があります。そのために普段から医学の専門書やガイドラインを読み込んだり、医師の講演会に参加したりして情報収集に励んでいます。
医療・病気の分野は専門的で難しく、知識を自分のものにするのは一苦労ですが、人のいのちや生き方に直結するテーマでもあるので、やりがいを感じています。

※『健康フォーラム』
NHKエデュケーショナル主催の公開討論イベント。健康や医療に関するさまざまなテーマについて、専門医や患者団体の代表者などをパネリストに招き、情報を伝える。

過去に担当した『健康フォーラム』のチラシ・当日台本

医療分野では、他にどんなお仕事を手がけましたか?

少し前ですが、最新の映像技術である「8Kスーパーハイビジョン(※)」の技術を医学分野に活用できないかと考え、医療用顕微鏡を用いた手術を「8K」で撮影する企画を担当しました。この手術では執刀する脳外科医が、医療用顕微鏡を見ながら患者さんの脳にメスを入れます。その顕微鏡に「8K」のカメラを取り付けて、実際に「グリオーマ」という悪性脳腫瘍の手術に立ち会い、顕微鏡から見える映像を「8K」で撮影しました。術後、執刀医からは「『8K』を使うことでより細やかな手技が行えるようになり、手術自体の安全性が向上する可能性がある」という感想をいただきました。「8K」で撮影した映像は、昨年4月に開催された「日本医学会総会」で展示公開され、私は会場で撮影方法などを説明しました。医療現場の撮影は非常に緊迫したものでしたが、「8K」技術の可能性について深く考える機会となりました。

※8Kスーパーハイビジョン
NHKが中心となって技術研究・コンテンツ開発を行っている最新の放送技術。現在放送されているハイビジョンの画質の16倍の超高精細映像を実現する。

8K手術映像の構成表。プロデューサーと推敲を重ねた。

今までで、特に印象的だったお仕事を教えてください。

昨年、初めて海外取材に行ってきました。場所はアメリカ・アトランタ。「糖尿病」がテーマの『健康フォーラム』で使用するVTRの撮影のためです。アトランタを拠点に活動している、糖尿病の患者さんだけで構成された自転車チームとそのCEOが取材対象でした。事前の取材などのやりとりは、現地のコーディネーターを通して、主にメールで行っていました。私は英語が苦手な上に、日本とアトランタの時差は14時間。なかなかスムーズにいきませんでした。不安要素を残したまま、ロケ当日を迎えましたが、現地では、常にコーディネーターに相談しながら取材をすすめ、撮影現場ではとにかく臨機応変に動くよう心がけました。自転車チームのCEOやチーム関係者に対してとても神経を使う撮影でしたが、後日、『健康フォーラム』本番に出演するため来日した自転車チームのCEOと再会した際に、彼が親しみを込めて握手を求めてくれたときは、本当にうれしかったです。余談ですが、海外取材・撮影を経て、苦手な英語がとても身近になりました。渡米する前は取材対象者の講演のVTRを何回も見て取材の参考にしましたし、もちろん現場でのコミュニケーションは英語だったので、帰国する頃には自然に英語が耳に入ってくる感覚になっていました。海外取材・撮影のほかにも、英語の論文や記事を読むこともあるので、学生時代から英語を勉強している人や留学経験がある人は、自分の能力を生かせる仕事かもしれません。

奥村さんが仕事で心がけていることは?

医学・健康分野の番組・イベントの制作では、患者さんが取材対象になることがよくあります。患者さんを取材する際には、一般の方に取材や撮影をお願いする以上に、体調を気にかけたり、取材や撮影が精神的な負担にならないように気遣う必要があります。例えば、糖尿病の患者さんは、食事をとる時間や食事の量、治療薬を投与するタイミングなど、治療が生活と密接に関係しています。私が取材や撮影をすることで、患者さんの治療のリズムを乱したり、治療に対して後ろ向きな気持ちにさせてしまってはいけません。そのため、こまめに連絡をとり、話を聞き、患者さんに信頼をしてもらうなど、最大限の配慮をする必要があります。また、そのような信頼関係や気遣いがあっても、時には取材対象者を傷つけてしまう場合もあります。医療番組に限ったことではないのかもしれませんが、私は、日々の番組・イベント制作において、取材対象者を気遣う気持ちを忘れないよう心がけています。

ロケの合間に取材対象者とロケスタッフで記念撮影

ありがとうございました。

飾らない感じで、淡々とした口調の奥村さん。しかしながら、その内容からコツコツと取り組む、細やかな仕事ぶりが浮かび上がってきます。最後に「どんな人がこの会社に向いていますか?」と質問を投げかけたところ、このようなメッセージが届きました。

この会社に向く人はどんな人?

自分のことは棚に上げて言いますが、「なにを伝えたいか」「なにを知りたいか」「なにが問題か」など、自分の中で伝えたいものを持っている人。また、「自分の中で伝えたいものを持っていながらも、他人の意見を受け入れられる人」がこの仕事に向いていると思います。 番組・イベント制作はディレクター1人が中心になって行いますが、1人だけで完成させることは絶対にできません。 自分の信念を持っていながら、他人の意見も尊重できるということがコンテンツ制作者には必要な気がします。

奥村 俊樹 おくむら としき
2013年入社
科学健康部